教員情報詳細
- 所属名称
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薬学部 健康生命薬科学科
- 資格
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教授
- 学位
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医学博士・薬学士
- 研究分野
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糖尿病・内分泌・栄養内科
- キーワード
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ホルモン・核内受容体・転写因子、発生
- ホームページ
- メールアドレス
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- 個人
- kemorimukogawa-u.ac.jp
最近になり、ホルモン作用が別称に置き換わり巷間に広がっていますので、より身近に感じている方もおられるのではないでしょうか。例えば、オキシトシンならば「愛情ホルモン」、エストロゲンでは「シンデレラホルモン」などです。これらホルモンの持つ生理作用が一言で言い換えされているのですが、こられのホルモンの作用は一つなのでしょうか?
ホルモンとは、体内にある物質(内因性生理活性物質)のことを言います。このホルモンは、体内で恒常性の維持に貢献すると共にそれ自体が医薬品、あるいは検査項目になっています。一例として、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を挙げますと、ANPは心不全治療(カルペリチド)に、BNPは心不全評価のための優れた指標です。CNPは、骨・軟骨の成長作用を持つ分子として、医薬品へのトランスレーションリサーチ(橋渡し研究)が継続されています。
エニグマについて先ずオキシトシンを例に挙げます。オキシトシンの生理作用として高校の基礎理科の教科書に登場するのは「分娩」と「射乳」ですよね。分娩では促進(子宮収縮促進)する目的で使用されている医薬品です。海外では、授乳を促進する目的でスプレー剤も利用されています。こうして見ますと、オキシトシンは出産可能な年齢の女性のみに生理作用をもっているように見えませんか?しかし、何故それらが男性にも、そして、生まれた時から老いても分泌されるのでしょうか? その謎は未だに解明されていないのです。しかし手掛かりの1つがあります。それはオキシトシンの精神や神経におよぼす作用です。どうやらヒトは言う及ばず、種を超えて作用することが明らかになっています。モフモフのネコなど、小動物を好きな人は多いはず。イヌは種を超えて、笑顔よりも悲しい顔の飼い主に寄り沿います。
最近発見されたホルモンは言うに及ばず、古典的なホルモンにも未だ知られざる生理作用など、解明すべき課題は幾つもあります。そこで私達は、①既知のホルモンの新規生理作用の発見、②既知の生理作用のメカニズムの解明、③以上の研究を進めながらホルモンの用途転換(医薬品開発)を目指して研究を続けています。
オキシトシンは、皮膚への機械的刺激により分泌が促進されます。哺乳類であれば、種によらず触れ合いで分泌が高まることが知られています(哺乳類では、種差なく分泌されることが分かっています)。犬と猿との仲直りに効くのか?は分からないのですが、犬と猫が一緒に眠っている光景は珍しくありません。ヒトにおいても、性別や相性に関わらず30秒以上のハグ(抱擁)で分泌が高まり攻撃性が抑制されることも知られています。触覚刺激で分泌が高まるため、ケア(看護・介護)にも活かされています。ケアとして有名なものに、ユマニチュード(フランス)やタクティールケア(スウェーデン)があります。これらの共通点は、“撫でる”、“さする”、“手を当てる”という方法を用いている事です。以上の効果は、少量しか分泌されない内因性オキシトシンの生理作用です。一方、薬として投与した場合(薬理量)のオキシトシンではどうでしょうか。今、その基礎研究(動物実験)と臨床研究(ヒトが対象)が進んでいます。臨床研究の対象者は、自閉症スペクトラムやアスペルガー症候群、発達障害などです。自閉症の子供たちは「視線が合いづらい」、「他者の気持ちがわかりにくい」などの症状により、社会生活上、大変辛い思いをしているとされています。対象者の血中のオキシトシン濃度が低いことも分かっていますが、これが神経活動の低下による結果なのか原因なのかは未だ解明されていません。自閉症は、スペクトラムであるため症状や程度は様々、よって治療結果も様々です。現時点で言えることは「オキシトシンの効果はある」ただし特効的な効果ではなく、対象者の病型を絞り込んだ上で、治療を継続して見極める必要があるというものです。またオキシトシンは、社会性や人間の行動に大きな影響を与えることも分かっています。そのため認知症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、さらには薬物中毒、犯罪者の治療にも応用できないのか研究されています。スウェーデンでは、認知症の患者さんにオキシトシン投与とタクティールケアを同時に行うことで、認知症の改善効果と進展阻止効果があったと報告されています。また米国では、凶悪犯の囚人に対してオキシトシンを投与し、攻撃性の抑制が可能かどうかについて研究が進められています。
最近発見されたホルモンは言うに及ばず、古典的なホルモンにも未だ知られざる生理作用など、解明すべき課題は幾つもあります。そこで私達は、①既知のホルモンの新規生理作用の発見、②既知の生理作用のメカニズムの解明、③以上の研究を進めながらホルモンの用途転換(医薬品開発)を目指して研究を続けています。
小児期には、成長ホルモン(GH)分泌不全症という疾患があります。患児には週1回、GH(ソマトロピン)を投与する(自己注射)ことで治療がなされています。過去、患児達が成長曲線において目標の身長に達した後はGHの治療は中止されていました。その患児達が成人して中年期にさしかかった頃、多くの方が肥満体型となりました。当時、それらは運動不足や食生活が問題ではないかと考えられていました。後になって、成人GH分泌不全症という考えが提案され、現在は成人後にもGHの自己注射が行われています。GHは、確かに成長期に分泌量が多いものの、生涯にわたり分泌されます。ではその必要性とは? 中年期の肥満防止のみが目的なのでしょうか? ハリウッド映画の有名なマッチョマンの男優は、GHを利用して70歳代でも筋骨隆々です。一方、マウスの実験ではGHを欠損させたり、作用を不活化したりするとマウスは長生きするようになります。ではヒトにおいて生涯にわたり分泌される生理学的な意義とは何でしょうか?
最近発見されたホルモンは言うに及ばず、古典的なホルモンにも未だ知られざる生理作用など、解明すべき課題は幾つもあります。そこで私達は、①既知のホルモンの新規生理作用の発見、②既知の生理作用のメカニズムの解明、③以上の研究を進めながらホルモンの用途転換(医薬品開発)を目指して研究を続けています。
研究室には低身長に悩む女子がいます。身長は「両親の遺伝因子」、とくに母親からの影響を強く受けてある程度決まります。それでも…、本人には高身長女子に憧れがあります。しかし20歳代後半にして健康診断で測定してみたら当人の身長(1.5cm/年)が伸びていたと大喜びしています。なぜ、どうした? 目下、効果を高めるための研究を継続しています。
身長には、先述の成長ホルモン(GH)以外にも、睡眠、運動、栄養など、関連する因子は分かっているだけでも複数ありますし、どれがどれだけ影響するのかも未解明です。アルギニンというアミノ酸だけでも、GHを分泌促進するのです。
しかし、柔道の阿部一二三選手や詩選手を見てもそうですが、そもそも同胞(兄-妹、姉-弟)で比較すると男子の身長が高いのが一般的のようです。でもなぜ? 身長はもう伸びない?当たり前を疑うところから研究はスタートします。
身長決定には、幾つかの古典的ホルモン作用が関係しています。最近発見されたホルモンは言うに及ばず、古典的なホルモンにも未だ認知されざる生理作用など、解明すべき課題は幾つもあります。今も、それに挑戦しています。
上述では、「愛情ホルモン」のオキシトシンのエニグマを記載しました。このオキシトシンと同様に、出産年齢の女性にとってプロラクチンも身近なホルモンとして分泌されています。妊娠前であれば、ストレスにより分泌量が増加します。その程度により月経不順~無月経となり、ストレス下の妊娠を抑制します。かつて「ハネムーン・ベビー」という言葉がありました。しかし現在では半死半生語になっていますね。でもこの言葉は、ストレスとプロラクチンとの関係性の一端を表していると思います。一方、分娩後では授乳のお膳立てと共に月経を止める作用があります。母体保護の観点からは何れも合目的と思われます。
このプロラクチンも両性で、且つ、生涯にわたり分泌されるのですが、その生理学的な意義はエニグマ(未解明)のままなのです。
最近発見されたホルモンは言うに及ばず、古典的なホルモンにも未だ知られざる生理作用など、解明すべき課題は幾つもあります。そこで私達は、①既知のホルモンの新規生理作用の発見、②既知の生理作用のメカニズムの解明、③以上の研究を進めながらホルモンの用途転換(医薬品開発)を目指して研究を続けています。